クラシタスのスタッフ

父の世界


クラシタス会
藤井 哲也さん
寺社建築担当

修行の道に終わりはなく、生涯をかけて腕を磨く。超えるべきは常に自分。それが職人の世界である。今回はこうした職人の世界に飛び込んだ、若き職人をご紹介したい。
 彼の名は藤井哲也。秋田県仙北市、田沢湖にほど近いこの町で彼は生まれた。そのときから、彼の周りには特別な音や香りがあった。たとえば響き渡る鑿の音。天を打つ槌の音。鮮烈で、どこか甘やかな木の香り。
それは父の世界だった。

偉大なる父

父の名は藤井勉(※)。伝統建築の技を受け継ぎ、数々の寺院を作り上げて来た寺社建築の匠である。父は誇りであり追うべき目標であった。
高校卒業後、父の背中を追う事を告げると、職人の厳しい世界を知り尽くした両親から猛反対を受けた。
「息子には安定した環境で…」
両親の親心に彼は進学を決意した。
だが大学生活では葛藤の日々。親の反対で夢を曲げた自分。本当にこれで良いのか。
目の前には、大学で専攻した教師の世界への扉。だが、一方ではまだ夢への扉がぼんやりと見えていた。道は二つにひとつだった。

自分の進むべき道

彼は、扉を開けた。
そこには、アルバイトをしながら職業訓練校に通う彼の姿があった。選んだのは大工の世界。二年の訓練を経て、父に弟子入りした。
先輩たちの所作、作業。次に必要な道具は何か。それはまさに見て習う日々。生涯自らと向き合い、超えていくために不可欠な「気づき」の修行。彼はまさに職人の世界に飛び込んだのだ。

更なる高みへ

一意専心で駆け抜けた。29歳になった彼は、全県技能競技大会に出場した。若き職人が集い、磨いた腕を披露する。その中で自分はどう評価されるのか|あの日、夢の扉を開けた自分は正しかったのか。まさに自問の戦いだったかもしれない。気がつけば、建築大工青年の部2位。大会敢闘賞も受賞した。
いま、彼は大工技能士1級。関わった寺院も多くなった。
大工という生き方について、彼は言う。
「寺社改修には作る楽しみもあります。でも、その建物が生まれた歴史や経緯、関わった方々の思いを知ることがやり甲斐をかき立てるんです」
それが彼にとっての〝更なる高み〟への入口なのかもしれない。
職人・藤井哲也。彼は間違いなく「匠」への道を歩んでいる。

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