寺院建築の匠

クラシタス会 寺社建築担当
藤井 勉

仕事場を訪れると、匠は木の板に何かを書き込んでいた。規則正しい縦横の線。整然と並ぶ丸印。よく見ると、同じような記号を書き込んだ板が幾枚も並んでいる。なるほど、これは屋根や柱を描いた図面なのだ。思い至ったとき、匠がこちらに笑みを向けた。 藤井工務店棟梁、藤井勉。クラシタスの寺院建築を支える匠である。

  • 寺院建築までの流れ

    寺院を建てる為には、大きく分けて7つの工程がある。すなわち、 ①板図(縮尺設計図)制作 ②原寸図制作 ③墨付け ④刻み ⑤建て方 ⑥上棟式 ⑦造作・仕上げ 職人や流儀によって多少異なるが、概ねこの工程で進んでいく。「私はまず板図を描き、それを元に原寸図(原寸大の設計図)を描きます」そう言いながら、匠はペンを走らせる。

  • 数百年と続く歴史として

    かつて大陸から伝わった寺院建築は、日本で4つの様式へと洗練された。同時に各宗派でもそれぞれの作法が定まっていく。現在はあまり厳しくはないと言うが宗派ごとの作法は今なお受け継がれている。「実は屋根や蟇股等(飾り)の形も違います。一見同じに見えますが、現場を重ねると違いが見えてくるものです」 それが「修行」なのだ。匠たちは何百年もの間、こうしてすべてを現場で学び体得してきたのだろう。「こうした違いを踏まえつつ、ご住職様や檀信徒の皆さんが使いやすいよう、ご要望をうかがいながら建てていきます」 建立には檀信徒さんからの御浄財も投じられる。その思いに応えなければならないのだ。完成までの間、多くの職人が奔走する。だからこそ、楽慶は大きな喜びなのだ。「お寺は百年・二百年と受け継がれます。このお寺は今までのお寺以上に長く残ってほしいですね」
    匠の目は板図に落ちる。この寺院はまだ数枚の板に書かれた線でしかない。だが、匠の目には楽慶を迎える寺院の堂々たる姿が見えているのかもしれない。